小麦粉を手で触り、水を加え、生地にふれるとインスピレーションが湧いてくる。
食感に食味と香り。そこに相性の良い地元の食材を加えて世界でひとつのパンが生まれる。
べーカリスタは表現者。
新しいパンを生み出すというのはわたしの理想を表現しているようなものだ。まず始めにイメージがあって頭の中で想像する。こんな食感で、ひと口かじると口の中にこんな味わいが広がって…。
そして、わたしは試作を始める。一回でうまくいくことは少ないけれど、何度も試作を重ねてイメージしたパンが完成した時の喜びは大きい。
早くお客さまに食べてもらいたい。新商品を発売する日、そのパンの売れ行きが気になる。最初に手にとってくれたお客さま。美味しいと喜んでくれるだろうか。
いろんな思いで最初の一個を見送る。
自分が試行錯誤して発売したパンが売れた時の喜びって何なんだろう。大袈裟だけれど、わたし自身を認めてもらったような喜び。わたしのパンの世界を楽しんでくれるお客さまがいる限り、私は精一杯自分の世界を表現していこうと思う。
生き生きと価値を発揮できる世界。
様々な地域で取れた食材を組み合わせて一つのパンに仕上げる。その食材はどこで、誰が、どのように作ったのかを考えるのもわたしの仕事。
北海道のあの人が作った小麦粉と地元のあの人が作った野菜、それがわたしの手で一つのパンに仕上がっていくというのは、よく考えると面白い。
こうしてどこにもない一品を作っていくのがわたしの創る価値なんだと思う。
新しい発見とワクワクする挑戦ができる世界。
世の中には聞いたことのない食材がまだまだあふれている。
新しい食材に出会う度にわたしはワクワクしてしまう。新しいレシピのアイデアが次々に浮かんでくる。新しい食材は今までになかった視点を与えてくれる。
新たな視点がわたしのパン作りを次のステージへ進めてくれる。
ベーカリーは目的地になり得る
ある日曜日、家族と共に100キロ以上離れている山に囲まれた自然豊かな地域にドライブに出かけました。子供達は自然で遊ぶことを楽しみに、そして、わたしはそこにある個性的なベーカリーで美味しいパンを買うことを楽しみに。
充実した休日を過ごしたい家族にとって、個性豊かなベーカリーは目的地になり得ます。そこで提供される非日常的な体験がいつもの休日を特別なものに変えてくれます。
だから、わたし達は忘れてはいけないんです。わたし達が提供しているのはパンではないということを。