なぜパンが膨らまないのか。

「私のパンはなぜうまく膨らまないのだろう。」「レシピ通りに作ったのに、うまくいかない。」そんな悩みはありませんか。

材料がよくない、製法がよくないと決めつける前に、まずは何が原因でパンが膨らまないのかを把握する必要があります。
例えば、イーストも小麦粉も悪いと疑って、どちらも別のものに変えてしまった場合。このやり方では、なぜパンが膨らまなかったのかを把握することは出来ません。闇雲に探すのではなく、その原因を探ることが重要です。

まず、パンが膨らむとはどういうことなのでしょうか。
もう少しわかりやすく、風船をイメージしてみましょう。風船を綺麗に膨らませるのに必要な材料は2つあります。それは「ガス」と「膜」です。
ガスの量が多すぎるとどうなるでしょうか。膜はその力に耐えることができず、最終的に破裂してしまいます。また、膜が強くても、ガスの量が少ないと、あまり綺麗な風船にはなりません。ガスの量と膜の強さがつり合って、はじめて綺麗に風船が膨らむのです。

パンも同じです。
膨らみに必要なのはガスと膜の2つ。つまり、「発酵」と「グルテン膜」が必要です。この2つがつり合うことで綺麗なパンを作ることができます。酵母が働き過ぎても、過発酵となってしまいますし、グルテン膜の力が弱すぎても、綺麗に膨らむことはありません。
このように、「発酵」に原因があるのか、「グルテン膜」に原因があるのか、一つ一つ調べていく必要があります。

この記事では「発酵」と「グルテン膜」の観点から、パンが膨らまない原因について紹介したいと思います。

発酵に原因がある

発酵の段階で生地が膨らまない、膨らんでいるけれど焼成した時に生地が沈んでしまう、穴が空いて形が悪くなってしまう。このような経験はありませんか。これは「発酵」に原因がある可能性があります。また、パンが膨らまない理由のうち、この発酵に原因があることがほとんどであると言われています。

発酵の具合を確かめる方法としてフィンガーテストと言うものがあります。発酵終了の生地を人差し指で真ん中を押してみてください。押しても生地が戻らないようであれば、OKです。生地が押し戻されるような弾力がある場合は発酵不足、しぼんでしまうような感覚であれば、過発酵です。

このように、発酵が弱すぎる、もしくは強すぎると考えられる場合には、次の可能性を疑ってみてください。

  1. 酵母が死んでしまっている。
  2. 発酵の時間が足りない。
  3. 温度が低すぎる。
  4. 酵母の材料がない。
  5. 発酵しすぎた。(過発酵)

1. 酵母が死んでしまっている。

酵母が全く機能していない場合は、酵母が死んでしまっている可能性があります。酵母は55℃以上で死滅すると言われています。夏場の暑い場所の上や、ガス周りに置いてしまったなど、酵母が死んでしまった可能性がある場合は、酵母を変えるしかありません。
酵母は基本的には冷蔵保存です。酵母の活性が少ない10℃以下で保存しましょう。

2. 発酵の時間が足りない。

パンを焼く工程の中に、「発酵」と言うものがあります。35℃前後の部屋に1時間ほどおくと、パン酵母が活性化し、糖を炭酸ガスとアルコールに分解します。一般的に一次発酵、二次発酵と続くと、生地は約2倍(※食パンの場合)に膨らみます。発酵時間が短いと、その分ガスの発生量も少ないため、結果としてパンがあまり膨らまない原因となってしまいます。少し膨らみが足りないと思ったら、発酵時間を伸ばすと良いでしょう。

3. 温度が低すぎる

パン酵母が一番活性する温度帯は35℃〜38℃と言われています。冬の寒い時期など室温が低すぎると、酵母の活性が遅れてしまい、発酵力は弱まってしまいます。
また、発酵前の生地の温度にも注意が必要です。冷蔵庫から取り出した水を使用する場合など、生地が冷たい状態で発酵をスタートしてしまうと、その分だけ発酵が遅れてしまいます。
夏と冬では室温も生地温度も異なるので、温度管理が重要です。

4. 酵母の材料がない

パン酵母はイーストと呼ばれ、活性化するためのはイーストの餌(イーストフード)、つまり糖が必要です。イーストフードが少ないと、発酵力が弱まってしまいます。食パンに少し砂糖を入れるのは、それがイーストフードとなり、酵母の働きを活性化させるからです。 砂糖を全く入れないハードブレッドなどは、発酵力は高くありません。その代わりに、モルトという麦芽を入れることで、小麦でんぷんを糖に分解することで、酵母の働きを助けます。
イーストフードが少ないと思ったら、砂糖の量を増やしてみたり、添加物としてのイーストフードを加えてみてください。発酵力が強まるかもしれません。
一方、塩は酵母の活性を弱める働きがあります。捏ね上げるときに、塩と砂糖は別々にし、酵母(ドライイーストなど)を入れるときはなるべく塩に被らないようにしましょう。

5. 発酵しすぎた。(過発酵)

パンの表面が崩れてしまっていたり、パンを切ったときに大きな穴が空いていたりするのをみたことはありませんか。これは発酵のしすぎ(過発酵)が原因です。ガスが大量発生し、空気が外に抜けてしまうことで、グルテン膜がそれに耐えることができず、パンの形が崩れてしまいます。また、発酵が進みすぎると、イースト特有のくさみや、大量発生したアルコールの匂いになります。
過発酵の場合は、発酵の時間と温度の管理が重要です。特に夏場は過発酵になりやすいので、注意しましょう。捏ね上げ時に冷たい氷水を使用することで生地全体の温度を下げ、過発酵を防ぐ方法もあります。

グルテン膜に原因がある

生地をこねていて、なんだかグルテン力がなんだか弱い、グルテンがつながらないと感じたことはありませんか。グルテン力が弱いと、ハリのある綺麗なパンに仕上がりません。また、捏ね上げ時間が足りない場合も同様に、硬くてパサパサとしたパンになってしまいます。
グルテン膜に原因がある場合、つまり、グルテン力が弱すぎる、もしくは強すぎることが考えられる場合は、次の可能性を疑ってみてください。

  1. グルテン量が足りない
  2. グルテンが繋がっていない
  3. グルテン膜を傷つけている
  4. 酵素が活性した

1. グルテン量が足りない

パンを膨らませるのに欠かせないグルテン。弾力があり、こねることで膜を作ります。この膜が弱いと、うまくパンは膨らみません。
ではグルテンとは、一体なんでしょうか。グルテンとは、小麦のタンパク質に含まれる成分の一つです。つまり、小麦粉のタンパク量が少ないと、グルテンの量も少ないと言うことになります。例えば、タンパク量の多い強力粉とタンパク量の低い薄力粉、それぞれ同じ条件でパンを焼いてみた場合、強力粉の方がよく膨らみます。これがグルテン膜の力です。
グルテン量が少ないと思ったら、強力粉のタンパク値に注目してみると良いかもしれません。一般に流通している強力粉でも、タンパクの数値はさまざまです。初めて作る場合などは、タンパク値12%以上の強力粉がおすすめです。

2. グルテンが繋がっていない

小麦粉に水を加えてこねると、小麦に含まれる2つのタンパク質(グリアジンとグルテニン)が結びつき、グルテンと呼ばれる弾力性と粘着性のある膜を作ります。パンを膨らませるのに欠かせないのが、このグルテン膜です。
グルテン膜の具合をチェックする方法があります。生地を薄く伸ばしてから後ろから指で当ててみてください。生地が破けず、透けて見えるくらいまで伸びることができれば、グルテン膜ができている証拠です。
グルテン膜がうまくできていないのは、捏ねが足りない証拠です。タンパク量の多い超強力粉などは、少し捏ねる時間を増やしてみましょう。
また、塩やミネラルにはグルテン力を強める働きがあります。グルテン力の補強として、ミネラルの多い海塩を使用したり、ビタミンCなどを添加してみてください。ただし、塩は入れすぎると酵母の働きを抑制してしまうので注意が必要です。ミネラルが多く含まれる硬水を使用することで発酵の促進する方法もあります。

3. グルテン膜を傷つけている

普通のパンと全粒粉のパン。同じ条件で焼き比べてみると、全粒粉入りのパンの方が、釜伸びはやや低いパンになる傾向があります。この原因として、全粒粉に含まれている皮(ふすま)などが、グルテン膜を傷つけてしまったことが考えられます。風船も同様に、表面を針で刺すと、パチンと割れてしまいますよね。全粒粉の皮などの硬いものや、副材料が多すぎると、膨らみの妨げとなってしまいます。この場合は、副材料の量などを調整してみると良いかも知れません。
また、全粒粉とブレンドするのであれば、少しタンパク値の高い強力粉を使用することをおすすめします。

4. 酵素が活性した

ちゃんと温度管理して発酵しているのに生地がだれてしまった、このような経験はありませんか。この原因として、「酵素が活性した」ということが考えられます。
酵素とはなんでしょうか。酵素はタンパク質の一つで、小麦にも酵素があります。難しく説明すると長くなってしまうので、ここでは酵素とは生きるために ”働く力”であるとイメージしてみてください。生き物には全て酵素が存在します。種を土に埋めて水を与えると、芽が出ますよね。この働きこそが酵素の活性なのです。
生地を捏ねる時に酵素が活性すると、どうなってしまうのでしょうか。酵素はでんぷんを麦芽糖に分解してしまう働きがあります。パンの構造として、グルテンが骨となり、でんぷんがそれを支えています。しかし、酵素の活性によってでんぷんが壊れてしまうと、パン全体が崩れてしまい、結果としてパンが綺麗に膨らまなくなってしまいます。
酵素が活性するのは、小麦粉が原因なのではないかと考える方も多いでしょう。小麦にも少なからず、酵素が含まれています。しかし、多くの場合は小麦粉以外の材料によるものがほとんどです。特に大麦やライ麦、大豆はなどは多くの酵素を含んでいることがあります。例え品質の良い小麦粉を使用したとしても、酵素の活性により、パンが膨らみづらくなることがあります。この場合の解決方法として、「失活」と言う方法があります。製品説明で「失活済み」と書かれているものもあります。一番簡単に失活させる方法は、その材料を一度加熱することです。
小麦粉で酵素が活性するケースは、非常に稀です。収穫直前に雨が降ってしまい穂発芽してしまった小麦粒などは酵素が活性しやすく、非常に扱いづらい小麦粉となってしまいます。しかし、広く流通している小麦粉にはそのようなことはほとんどありません。小麦粉の酵素活性の可能性は、あまり考えなくても良いと思います。

まとめ

以上、なぜパンが膨らまないのかについて、「発酵」と「グルテン膜」の観点から説明しました。パンの材料にはそれぞれ重要な役割があります。一つ一つの役割を理解すると、よりパンの膨らみについてロジカルに理解を深めることができます。

闇雲に疑うのではなく、まずはパン作りの理論を理解するところから始めてみましょう。