パン屋とサステナビリティ

サステナビリティと言えば、多くの人は「個人の力で解決できない」と感じるかもしれません。確かに、個人の小さな取り組みだけでは大きな問題の解決は難しいかもしれませんが、私たち一人一人の努力が集まれば大きな変化をもたらすと信じています。パン作りも同様に、その小さな一歩が大きな意味を持つことができます。

「暮らしもパン作りも、環境に優しい方法で進めたい。」

この記事では、サステナビリティの考え方と、それを手作りのパンづくりに取り入れる方法を皆さんと共有します。

サステナブルってそもそも何?

サステナブル(sustainable)とは、英語で「持続可能な」という形容詞を指します。一方、サステナビリティ(sustainability)とは、「持続可能性」という名詞を指します。

「持続可能性」という言葉を耳にするものの、具体的にどのようなものかというイメージは、多くの人々には難しいかもしれません。

「私たちの現在の暮らしは、持続可能ではないのだろうか?」という疑問を抱く人も多いでしょう。確かに、今の生活が問題なく続いているのならば、その生活は一時的には持続可能であると言えるかもしれません。

しかし、そのような生活を次の世代にも継続していけるのでしょうか。

サステナビリティとは、単に現在の自分やコミュニティの持続だけを考えるものではありません。それは、社会、地球環境、経済が長期にわたって、世代を超えて続いていくことを意味するのです。

サステナブルな暮らしが求められるようになったのはなぜ?

サステナブルな暮らしを追求することにより、地球環境を保護し、次世代にも水や化石燃料などの自然資源を継承できるようになります。

「サステナビリティ」という概念が環境保護のためのキーワードとして世界的に注目されるようになったのは、1987年頃からです。
その時期、環境問題は世界的には主要な議題としては取り上げられていませんでした。しかし、ノルウェーのブルントラント首相は環境問題の重要性を強く認識していました。

彼女は環境大臣から首相に昇格した後、「Our  Common  Future」という報告書を発表。この中で
「現在の世代のニーズを満たしながら、未来の世代のニーズも満たせる持続可能な開発」を訴えました。

この報告書の影響で、多くの人々が地球環境の問題を真剣に受け止め、次世代も快適に暮らせるようなサステナブルな生活スタイルを模索するようになりました。

サステナビリティは意味がない?

サステナビリティ(持続可能性)という言葉に対して「何か胡散臭い。」「非現実的である。」と感じる方も少なくありません。

過度にサステナブルな生活を追求することは、日常の不便や社会的な孤立を招く可能性も考えられます。実際、サステナビリティに関する誤解や矛盾を指摘する内容も出回っています。

「私の取り組みだけでは、果たしてどれほどの意味があるのだろう?」と疑問を抱くこともあるでしょう。

しかし、そのような疑問を理由に考えることをやめてしまうと、持続可能な暮らしはより遠のいてしまいます。一人一人の小さな取り組みが、大きな変化を生むための第一歩であると私たちは信じています。

大手企業だけでなく、個人経営の店や地域のパン屋さんも、サステナブルな手法での経営が求められています。個別の行動は小さくとも、それが集まれば大きな影響を与えることができます。

サスティナブルなパンを目指すにはどのような行動を心がければいいの?

サステナブルな暮らしは時に手間がかかると感じ、途中で挫けそうになることもあるかもしれません。それでも、私たち一人一人の積み重ねる努力が、結果として大きな変革を生む鍵となります。

「手作りパンをよりサステナブルにしたい」という方へ、ベーカリスタからサステナブルなパン作りのアイデアを5つご提案します。

完璧を追い求めるのではなく、小さなステップから始めてみることをおすすめします。

1.  地元の材料を使用する 。

地元の材料を使用するメリットは多岐にわたります。
まず、地元の材料は鮮度が高く、採れたての旬野菜などを楽しむことができます。

また、直接農家へ足を運び仕入れた食材は、顔が見える安心感とその土地の風土を感じることができます。地元の農家を支えることで、地域活性化にも繋がります。

さらに、地元で採れたものは比較的リーズナブルな価格で販売されていることが多く、また、輸送によるCO2を削減することできます。

2.  オーガニックのものを選ぶ。

有機栽培(オーガニック)は、地球環境にやさしい農法とされています。

その理由は、有機栽培では化学肥料や農薬、殺虫剤、除草剤などの使用が制限されているからです。代わりに、堆肥や農業残渣(収穫後の茎葉や野菜のくずなど)を活用します。

ただし、有機栽培にもデメリットが存在します。たとえば、栽培方法が難しく、普通の小麦と比べると品質の安定性が劣ることがあります。さらに、管理が複雑でコストも高くなる傾向があります。

とはいえ、有機栽培は環境や健康の観点から多くのメリットを持っています。詳細はこちらをご覧ください。(リンク:なぜ、オーガニック小麦は高いのか。

有機栽培の農作物を支持することで持続可能な社会の実現に貢献することができます。

3.  廃棄を削減する。

「廃棄をしない」ことは当たり前のように思えるかもしれませんが、お店を経営する方々の中には、避けられない状況で食品を廃棄してしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。

実際に売れ残ったパンは世界中で廃棄されています。食料廃棄の問題が深刻化している中、パンは世界で最も廃棄される食品の一つと言われています。

廃棄を避けるための工夫に関して、こちらの記事で詳しく解説しています。 客足を予測して必要な量だけ製造する、またはパンの再利用など、様々なアイデアをご紹介しています。
リンク:パンを廃棄しないための工夫

4. 包装資材を減らす 。

パンを保存する際には、包装資材が欠かせません。しかし、その包装資材は、使い終わった後にはゴミとして捨てられることが多いです。

最近、プラスチックの使用を減らす動きが広がっています。プラスチックは石油由来であるため、その消費を抑えることは環境の観点からポジティブな一歩となるでしょう。

それでは、紙包装はどうでしょう。プラスチックから紙への切り替えが進むことで、プラスチックよりも紙の方がエコと考えている方が多いのではないでしょうか。

しかし、アイルランドの研究によると、紙の製造にはプラスチック製造の約4倍のエネルギーが必要だとされています。従って、単純にプラスチックよりも紙が良いとは一概に言えませんね。

要するに、包装資材の使用を最小限に抑えるのが最もサステナブルな方法と言えるでしょう。いくつかの小さなパン屋では、常連のお客様にマイバッグを提供したり販売したりしているところも見受けられます。

5. エネルギーの効率を上げる 。

パンの製造には多くのエネルギーが必要です。特にオーブンは、製パン工程で最もエネルギーを消費します。

使用する機械を効率的なものを選ぶことや、使用する回数をできるだけ減らすことで、エネルギーの効率化につながります。

これは極端な例かもしれませんが、雑木を薪として使用し、窯で焼くパン屋さんも存在します。

家庭での取り組みとしては、使用回数を減らすような工夫や、小さな節約の習慣を始めてみることをおすすめします。

まとめ

本記事では、サステナブルの解説とサステナブルなパンのアイデアをいくつか紹介いたしました。

私たち一人一人の意識することで、地球環境の改善に寄与することができます。まずは、小さなことから始めてみることをおすすめします。

ベーカリスタでは、パン作りに役立つ情報や、パン作りをより楽しむためのアイデア、さらにパンや小麦に関する知識をお届けします。