低アミロ小麦とは、雨害などの影響により穂発芽した、また穂発芽しかけていて、アミロ値が低い小麦です。酵素活性が強く、うまく生地を作ることができない小麦粉になってしまいます。パンであればうまく膨らまず、麺であれば茹でる前に麺がちぎれてしまいます。
低アミロ小麦を使用したパンは、なぜうまく膨らまないのでしょうか?
原因は”でんぷん” にあります。
でんぷんとは、炭水化物の一つで、穀物の多くに含まれています。もちろん、小麦にもでんぷんは多く含まれています。 アミロ値というのを簡単に説明するなら、でんぷんのブヨブヨになる度合いと言うと、少しわかりやすいかもしれません。例えば、片栗粉に水を吸水させて加熱するとブヨブヨになりますよね。この粘度の特性をわかりやすく表したものがアミログラムです。小麦でん粉を含めたいくつかのでんぷんについてのアミログラムは下の図をご覧ください。特に馬鈴薯でん粉は粘度がかなり高いのがわかります。小麦でん粉は、数あるでん粉種の中でも膨潤しにくいでん粉に分類され、さらに加熱による粒の崩壊が起こりにくいとされています。
画像:長田産業株式会社
アミロ値が低いということは、吸水して熱を加えてもブヨブヨにならないということです。つまり、低アミロ小麦はでんぷん特有の粘性がうまく機能せず、パン特有のふわふわ・もちもち食感を得ることが難しいと言われています。
なぜ低アミロになるのか
近年の北海道は気候変動により、多くの農家さんは ”雨” に悩まされています。収穫前に雨がたくさん降ってしまうと、粒に芽が出てしまいます。これを穂発芽と言います。また、穂発芽した小麦には酵素が活性しやすく、酵素はでんぷんを破壊してしまう働きがあります。このように穂発芽によって酵素を多く含んでしまった小麦は低アミロになります。
また、酵素活性は低アミロ小麦だけに起こるわけではありません。低アミロ小麦と正常な小麦をブレンドした場合も同様に、酵素活性は発生は起こります。つまり、低アミロ小麦は他の小麦粉とブレンドして使用すれば大丈夫だろうと思っていても、酵素は他の正常な小麦粉にも影響し、発酵を妨げるのです。
例えば、低アミロのライ麦を使用したせいで、結果としてパンがあまり膨らまないということがあります。この場合は小麦粉のグルテンに原因があると思われがちですが、ライ麦の低アミロが原因でパンが膨らまないのです。
低アミロ小麦を使用するなら
先ほど説明した通り、低アミロ小麦はパンが膨らまないだけでなく、他の材料に含まれるでんぷんも破壊してしまう可能性があります。それでも、低アミロ小麦をやむを得ず使用する方もいるでしょう。ここでは、低アミロ小麦を使用する場合に、いくつかの有効な方法を提案させていただきます。
- 失活させる
- 発酵時間を短くする
- 他の小麦粉を多めにブレンドする
失活させる
酵素というのはどの生物にも存在するタンパク質の一つです。私たちの体や作物が発酵(腐敗)せずに維持することができているのは、酵素のおかげなのです。雨によって穂発芽した粒は酵素が活性化しやすく、発酵を妨げてしまいます。そのため、低アミロ小麦を使用する場合は失活するという方法があります。
失活させる一番簡単な方法は加熱することです。80〜90度で加熱すると失活させるさせることができます。ただ、同時にでんぷんも破壊してしまうので、注意が必要です。 失活させるという方法は、生地としての小麦粉ではなく、香りとして使用するのが良いでしょう。
発酵時間を短くする
酵素が活性化しやすい温度は20℃〜40℃と言われています。発酵時間が長いと、その分活性化しやすく、生地がだれてしまいます。 発酵時間を普段より短くすることで、生地のだれを防ぐことができます。
他の小麦粉を多めにブレンドする
低アミロ小麦を使用する場合、他の小麦粉とのブレンドと良いでしょう。発酵時間にも気を使う必要がありますが、それでも低アミロ小麦粉をそのまま使用するよりはちゃんと膨らむ生地になると思います。ブレンドする割合や発酵時間など調整しながら使用してみてください。
低アミロ小麦は本当によくないのか。
一般的に、低アミロ小麦は製パン性はよくないと言われています。しかし、安定した品質の小麦だけが本当に良い小麦なのでしょうか。その年によって気候、風土も異なりますし、小麦も農作物の一つですので、安定していい品質を作り続けるのは非常に難しいことなのです。しかし、例え安定した小麦でなくても、その年に収穫された新麦を楽しみたい方もいるのではないでしょうか。
ベーカリスタでは安定した品質の小麦粉はもちろんですが、その年の小麦を楽しむことができる、安定しないけれど安心できる小麦も同時に提案させていただきたいと思います。
まとめ
今回は、低アミロ小麦について解説しました。特に新麦を購入される方にとっては重要な情報かもしれません。その年によって収穫された新麦は、雨の多い年では低アミロになることがあります。今回の記事を参考にレシピ開発をしていただければ嬉しいです。
低アミロ小麦でもパン材料として使用するベーカリーシェフを、私たちは応援します。