十勝とやま農場(北海道帯広市)外山隆祥さん

“正解のない農業”を、自分の手で耕して。

北海道・十勝。広大な畑が広がるこの土地で、「十勝とやま農場」を営むのは、4代目の外山隆祥(たかよし)さん。

現在は、小麦・あずき(紅白)・大豆・黒豆・かぼちゃ・じゃがいも・デントコーンなど多品目の作物を育て、土壌にやさしい輪作を実践しながら、農業体験型のゲストハウスや食育イベント、地域との協働など、多岐にわたる取り組みを行っています。

一見、順風満帆に見える彼の歩み。しかしその始まりは、父との突然の別れという大きな喪失からでした。

「どれが正解か、わからなかった」 ―― 父を亡くした高校時代

「実は、高校までは農業なんて、あまりやったことがなかったんです」

そう静かに語る隆祥さん。高校では普通科に通い、農業とは距離のある学生生活。実家の手伝いも、たまにする程度だったといいます。
しかし、高校在学中に突然、父が病に倒れ帰らぬ人に。家業である農業は、母がひとりで担うことになりました。

「そのときは、ただ呆然とするしかなくて。農業の知識も経験もなかったし、父から何も教わっていなかった。何をどうしたらいいか、本当にわからなかったんです」

それでも、「農業をやりたい」という思いが芽生え、農業大学へと進学。22歳のとき、いよいよ実家の農場での営農を本格的にスタートさせます。

手探りからのスタート。母と二人三脚の農業

「最初は本当に手探りで、自分の知識と感覚を頼りにするしかなかった。でも、やってみると上手くいかないことばかりでした」

農業経営の難しさ。天候や市場価格の変動、病害虫、作物の品質…。隆祥さんは、その都度立ち止まり、母と話し合いながら、ひとつずつ改善を重ねてきました。

そして数年後、小麦栽培に取り組み始めます。

「小麦は比較的作りやすくて、収量も安定している。でもそれ以上に、自分で育てた小麦が加工業者に届き、商品になるという“先”が見えるのが面白かったんです」

その体験が、彼に新たな価値観をもたらします。

「シングルオリジン」に込めた誇りと責任

農協出荷では、様々な農家から集まった小麦が混ざって出荷されます。その年ごとの気候によって品質が変わることも多く、ある意味では「仕方がない」現実があります。

けれど、十勝とやま農場では、あえて“単一農場由来”の「シングルオリジン小麦」にこだわる道を選びました。

「名前が出るからには、やっぱり良いものを届けたい。妥協せず、自分の納得する品質を目指したい。その方が作る自分も楽しいし、プライドを持てるんです」

隆祥さんの目は、まっすぐでした。

“農業を伝える”という使命 ―― 宿とサウナ、そして畑の教室

2016年からは、畑の一角に宿泊施設を設け、農場体験型「とやま農場ステイ」をスタート。

敷地内には、三菱の旧型キャンターを改装した「カンノンサウナ」も設置。北海道産カラマツを使用した木の香り漂うサウナ室、戸蔦別川の伏流水を使った水風呂、畑越しに広がる日高山脈の絶景。心身ともにととのう、とっておきの場所です。

日高山脈が“観音様が寝そべる”風景

帯広市美栄地区から見た日高山脈が、まるで観音様が横たわる姿のように見えることから、地域の人々に親しまれてきました。

十勝観音と呼ばれる愛称は、母・聖子さんが、この山の姿を「十勝観音」と呼んでおり、そのイメージを引き継いで「カンノンサウナ」と名付けられたとのこと 。

「農業って、“生きる”ことと直結している仕事なのに、普段の生活の中でその実感を持てる人って少ないと思う。だからこそ、ここに来た人に体験してもらいたい。何を食べて、どんなふうに育ったのかっていう“いのちのプロセス”を」

妻・暁子さんは聖子さんと共に、農場内でのイベントや「畑の教室」、季節のマルシェなどを積極的に開催。Instagramライブで母との食に関する配信も行い、「農業の楽しさ」や「食の大切さ」を柔らかく、けれど力強く発信しています。

「想い」だけじゃなく「お金」もめぐらせる

こうした取り組みはすべて、“農業の未来を考える”という視点に立っています。

「想いだけじゃ、続かない。だからこそ、経済的にもまわしていく仕組みが必要なんです」

宿泊施設・サウナ・体験コンテンツなどを通じて収益を生み出し、農業経営を支えながら、“農を伝える場”を継続していく。そこには、農業を単なる「生産の場」ではなく、「関係性が生まれる場」として育てていく意思があります。

地域と、子どもと、未来と ―― “食卓に笑顔の種を”

「実は僕、人見知りなんですよ」と照れたように笑う隆祥さん。

けれど、地域の人から頼まれれば喜んで力を貸し、逆に自分の作業も手伝ってもらう。子どもたちには、地域の大人との関わりを通して社会を学んでほしいと語ります。

農場のすぐ近くには、十勝産小麦100%、地元産の農作物を使ったパン屋「ベーカリーシュマン」があります。「こんな何もないところにパン屋さんができて嬉しい」と喜ぶ地域のお年寄りたち。地域に“食の幸せ”があることが、暮らしの豊かさを生んでいます。

土に向き合い、心を耕す

十勝とやま農場では、土壌分析に基づき、化学肥料と有機肥料を適正に使い分け、ミネラルバランスの良い土作りを実践。「健康な土が健康な作物を育てる」という信念のもと、環境にも人にもやさしい農業を追求し続けています。

「収穫の時、良い結果が出れば嬉しいし、悪ければ悔しい。でも、それも全部、自分の責任。だからこそ、毎年、少しずつでも良くなるように工夫する。それが農業の面白さです」

最後に ―― この農場でしか得られない、体験があります

家族で、大切な人と、仲間と ―― 広々とした畑に囲まれた空間で、大声で笑い、語り合い、命を感じる時間。とやま農場では、そんな“豊かさ”を届けています。

「食卓に笑顔の種を届けたい」

この言葉をモットーに、今日も外山さん一家は、土を耕し、心を耕しながら、未来の「農」を描いています。

とやま農場 きたほなみ クラフト小麦粉 | シングルオリジン 北海道帯広市


日高山脈を望む広大な畑で、有機物を活かした循環型農法に取り組み、環境にも人にもやさしい農業を実践しています。土地・作り手・品種が明確な“シングルオリジン”。素材にこだわる方へ、自信をもってお届けします。
▶︎ 商品ページへ