若山農産(北海道ニセコ町)若山和也さん

夢の中を生きている。

北海道ニセコ町。雄大な自然と清らかな空気に包まれたこの地で、「キタノカオリ」という小麦を育てるひとりの農家がいます。若山農産・若山和也さん。彼の人生は、バンドマン、働き詰めの農業者、そして今、家族と未来を見つめる生産者として紡がれています。

「今は感謝の連続です」

そう語る和也さんの言葉には、数々の苦労と、そこから生まれた確かな実感が詰まっていました。

バンド活動に生きた20代、東京・高円寺

若山さんの20代は、農業とはまったく縁のないものでした。舞台は東京・高円寺。音楽を本気でやりたくて上京し、バンド活動に明け暮れていた日々。

「東京って本当に生きていくのが大変で……。働いても働いても食べていくだけで精一杯。何のために東京にいるんだろうって、よく考えてました」

仲間と夢を追う日々は輝きもあったけれど、同時に心がすさんでいった。

「戻りたいとは思いません。でも、あの経験があったからこそ、今はど根性で乗り切れる。人生で一番、精神が鍛えられました」

兄の離農、そして「30歳のリスタート」

音楽から離れたきっかけは、実家の事情でした。兄が離農することになり、和也さんが農業を継ぐことに。30歳からのスタート。周囲は皆んなベテラン農家ばかり。不安は山ほどありました。

「最初は父についていくだけ。でも父のやり方って、自分には合わなかった。だから、失敗しながらも少しずつ自分の方法を見つけていきました」

農業の仕事は、朝4時に始まり、夜7時まで終わらない。「この生活だと、出会いもなくなるし、家庭もうまくいかなくなると思ったんです」

だから、彼は“働き方”そのものを見直しました。作業効率を見直し、段取りを工夫し、無駄を省く。今では、以前と比べて家族との時間をとれるようになり、「働くこと」と「生きること」のバランスが取れてきたといいます。

小麦に挑む:ゼロからのスタート

「ニセコ産のキタノカオリを作っている農家って、当時いなかったんですよ。じゃあ、自分がやってみようって思ったんです」

そう決めてからも、道のりは険しかった。小麦を育てるには、播種機・コンバイン・乾燥機といった専用の農機材が必要。どれも高額で、すぐに手が出るものではありませんでした。それでも和也さんは、補助金制度を調べ、試行錯誤しながら畑を整備し、ついにニセコの地で小麦を育てることに成功します。

「小麦って、一人で育てて収穫まで完結できるんですよ。それが僕みたいなタイプには、向いてたんだと思います」

そして和也さんの哲学がまた、印象的でした。

「“良いものを作れば利益が生まれる”って考え方、もちろんあるんですけど、僕は逆で、“利益を考えるからこそ、良いものが作れる”って思ってるんです」

利益を意識することで、素材にも、工程にも、結果にも責任を持つようになる。そこから“本当に良いもの”が生まれる。彼の言葉には現場からの重みがありました。

パンと小麦、家族のかたち

若山さんの妻・羽蘭(うらん)さんは、ニセコで「Plume(プリューム)」というパン屋を営んでいます。使用している小麦は、和也さんの作るキタノカオリ。

「最初は道の駅でちょこっと販売するくらいだと思ってたんです。でも、妻が本気だった。実際に彼女のパンを食べて、これは売れるって確信しました」

ちょうどその頃、小麦の6次産業化を支援する補助金制度が整い、まるでパズルがはまるように、すべてがタイミング良く進んだといいます。

「自分の小麦で、妻がパンを作る。その流れにはストーリーの軸があるんです」と話す和也さんは続いて、「モチベーション?……単純に妻の喜ぶ顔が見たいからです」と、照れながら笑顔を見せました。

見えてきた未来

小麦づくりが安定してきてから、次の夢を語ります。

「ポップコーンや落花生も作ってみたいんです。落花生でピーナッツバターを作りパンに挟む素材として使ってもらいたい」

また、ふるさと納税に農作物を出品したことで、たくさんのレビューや感謝の声が届くようになり、「顔の見えない誰かの食卓とつながっている」と感じられるのが喜びになっていると言います。

「夢の中にいるみたいなんです」

東京で夢を追い、挫折し、家業を継ぎ、再び夢を育てた和也さん。今の暮らしは、あの頃の自分が一番欲しかった「豊かさ」に満ちているのかもしれません。

「毎日、やることは沢山あります。でも、思うんです。“今、自分は夢の中を生きてるな”って」

その言葉には、苦労の末にたどり着いた静かな確信がありました。彼の育てたキタノカオリは、今日も妻の手でパンとなり、誰かの食卓をあたたかく彩っています。

 

若山農産キタノカオリ クラフト強力粉 | シングルオリジン 北海道ニセコ町 


羊蹄山のふもと、ニセコで育った希少な小麦「キタノカオリ」。若山農産が、この地では珍しい秋まき小麦の栽培に挑み、自然のリズムと向き合いながら丁寧に育てています。土地・作り手・品種が明確な“シングルオリジン”。素材にこだわる方へ、自信をもってお届けします。
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