オホーツクファームうしお(北海道紋別市)遠藤貴裕さん

人のご縁がつないでくれた道

北海道・紋別市。オホーツク海を望む小さな集落に「オホーツクファームうしお」があります。わずか8世帯だけが暮らすその土地で、自然に寄り添いながら農業を営むのが遠藤貴裕さんです。

かつてはサラリーマンとして働いていた遠藤さんが、なぜ農業という新しい道を選んだのでしょうか。その背景には、いくつもの「ご縁」に導かれた物語がありました。

サラリーマンからの転機

「正直、限界でした。」
遠藤さんはサラリーマン時代をそう振り返ります。成果に追われ、数字に追われ、心も体もすり減るような日々。安心はあっても、生きている実感はなかったといいます。

2017年10月、思い切って会社を辞めました。しかし新しい道の答えは見つからず、不安と焦りの中でさまざまな仕事に挑戦する日々が続きました。「自分は何者でもない」と思い詰めてしまうこともあったといいます。

それでも彼の歩みをつないでくれたのは、やはり「人とのご縁」でした。

味噌作りで知った「原料の力」

2018年、福井県の農家民宿善性寺商店で味噌作りを学ぶ機会に恵まれました。さらに岩尾醤油との出会いが遠藤さんに大きな気づきをもたらします。

「味噌ひとつを作るにも、原料の質がすべてを決めることを実感しました。大豆や米、塩――素材そのものの命に支えられているんだと。」

食の根幹にある「原料の大切さ」を知った瞬間でした。

京都での挑戦、そしてコロナ禍

その後、京都でヴィーガンレストラン「いただき繕 京都」に勤務。新しい食の可能性を体感し、充実した時間を過ごしていました。ところが2020年、コロナ禍で店は休業を余儀なくされます。

「広く浅くいろいろなことをやってきましたが、どれも形にならなかったんです。何かを本当に自分のものにするには、時間をかけて一つのことに向き合わなければ独立はできない。資金もないし、自分は何者でもない…そう思い悩んでいました。」

暗闇の中にいるような時期。しかしまた一つ、「ご縁」が彼を次の場所へと導きます。


紋別との出会いと地域おこし協力隊

京都のレストランの親族が名寄に住んでいたことから、オホーツクを訪れる機会がありました。さらに興部町(おこっぺ)のノースプレインファームを取材する打ち合わせの場で、紋別市役所の職員と出会います。

「地域おこし協力隊」という仕組みがあることを知り、応募。2021年4月に着任しました。オペラ農場の寺岡さんと共に、原料から商品を生み出すプロジェクトに取り組みはじめたのです。

「自分は人の役に立ちたいという思いが軸にあります。協力隊はお金をいただきながら事業展開ができる仕組みで、本当に助かりました。地域の方も受け入れてくださり、仲間になってくださいました。」

それまで悩んできた「自分は何者なのか」という問いが、初めて解けた瞬間でした。

小さな集落での助け合い

2020年には妻・草園さんと出会い、支え合う暮らしが始まりました。オホーツクファームうしおがあるのは、わずか8世帯の集落。高齢化で5世帯は離農し、農業を続ける人はほんのわずかです。

「最初は一人で農業を始めたので、本当に大変でした。でも周りの方が機械を貸してくださったり、アドバイスをくださったり。人に支えられていることを実感しました。」

助け合いの中で農業を始めた日々は、遠藤さんにとって新しい学びの連続でした。

自然に「動かされる」暮らし

「サラリーマンの仕事は自分が動かしていました。でも農業は、自然に動かされるんです。」

春に種を蒔き、夏を過ごし、秋に収穫を迎える。季節の移ろいに合わせて体も心も動く。農業は「見守るしかない仕事」ですが、その先にある命の力に感謝の思いが募ります。

「自然農法は祈るしかありません。すべてを受け入れるしかないんです。自然の偉大さを前にすると、人間の世間体なんて本当に小さく感じます。」

豊かさとは何か

サラリーマン時代には給料という安定がありました。それでも、満たされない気持ちが残っていたといいます。

「生活のために仕事をしているのか、仕事のために生活があるのか…ずっと考えていました。今は違います。食べていける力を身につけることこそ本質です。子どもに必要なお金さえあれば十分。豊かさは、この地域で暮らすことそのものなんです。」

味噌を仕込み、友人とコーヒーを飲みながら語り合い、食事をみんなで囲む。そんな何気ない時間に、心からの幸せを感じるようになりました。

山が教えてくれた「生きている感覚」

サラリーマン時代の楽しみは山登りとスキーでした。週末には山へ出かけ、自然の中で極限の状態を味わうことが生きる実感だったといいます。

「山で迷えば命を落とすかもしれない。だからこそ生きていると感じられたんです。農業も同じです。自然と向き合いながら、生命の力を感じることができます。」


「ウツツの森」から届けたいもの

オホーツクファームうしおがあるのは「宇津々(ウツツ)」と呼ばれるオホーツク海から車で15分ほどの山に囲まれた地域です。遠藤さんはここでしかできない農業を目指しています。

「無農薬で取り組んでいるのは、この土地の豊かさを知ってほしいからです。消費者が原料を知っているということはとても大事です。安心感を届けたい。それがあるからこそ、大変な作業も頑張れるんです。」

ストーリーを持つ農業を目指し、地域と共に歩んでいます。

生きることは奇跡

「生きていることそのものが奇跡なんです。」
そう語る遠藤さんの言葉には、穏やかで力強い響きがありました。

サラリーマンから農業へ。数々のご縁に導かれ、悩み苦しんだ日々を越えて、今、遠藤さんは自然と共に生きています。

豊かさとは何か。生きるとは何か。オホーツクファームうしおの物語は、その問いを私たちに静かに投げかけています。

 

オホーツクファームうしお スペルト小麦 クラフト全粒粉 | シングルオリジン 北海道紋別市


安心できる原料と無農薬の取り組みを通じ、オホーツクの自然と人とのご縁を未来につないでいます。
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