なぜ、小麦は品種改良をしなければならないのでしょうか。また、品種改良は私たちの身体や地球環境にどのような影響をもたらすのでしょうか。
今回の記事では現在行われている品種改良の方法についての紹介と、品種改良がもたらす影響について考えていきたいと思います。この記事を読んで、少しでも小麦の品種改良について理解を深めていただけると嬉しいです。
ベーカリスタではパン材料を取り扱う私たちだからこそ解説できる、パンや小麦に関する専門的知識をお届けしています。
なぜ、品種改良が行われるのか。
「なぜ、品種改良が行われているの?」「そもそも、品種改良って何?」
というお問い合わせをいただいたことがあります。
品種改良とは、小麦を効率よく収量をあげたり、病気に対して強くしたり、風味や栄養価など小麦の品質の改良を目的として行われます。
もともと日本の風土は小麦の生産にはあまり適さないため、雨や湿気などのに対応できる品種を開発する必要があったのです。
また、近年の気候変動により、北海道は夏の収穫期に雨が降るようになりました。品種改良を行うことで、環境変化に対する適応性を高めることも可能なのです。
こうして品種改良が行われてきた結果、以前まで輸入に頼っていたパン用小麦が北海道などで生産されるようになり、私たちは国産小麦を食べることができるのです。
品種改良による身体の影響について
品種改良を行うことで、懸念される問題もあります。
一般的によく議論される話題は、「生態系の破壊」と「小麦アレルギーのリスク」です。
特定の品種が広く栽培されることで、多様性が失われてしまう可能性があるでしょう。また、一部の優れた品種が広まることで、地球環境や生態系が破壊されるのではないかという懸念の声があります。
また、品種改良により新しいタンパク質が生成されることで、アレルギー発症のリスクが高まる可能性があります。現代の小麦アレルギーが増えたのも、品種改良が理由の一つではないかと考える専門家がいます。
ただし、それが品種改良が起因する問題なのかはまだ十分に解明されていない部分があり、今後の研究が求められています。
品種改良の歴史は?
少し意外かもしれませんが、実は、私たちが生まれるずっと前から小麦の品種改良は行われて来ました。
小麦が本格的に栽培され始めたのは、紀元前8000年頃と言われています。その後、エジプトやギリシャなど地中海地域に広まり、品種改良が行われるようになりました。
19世紀以降、科学的な品種改良が始まりました。世界的な人口増加に伴い、小麦の生産量をあげることが求められていたのです。
20世紀に入ってからは、遺伝子操作技術が発展し、品種改良の開発時間が短縮され、より高度なものになりました。
現在でも食糧危機の問題は未解決であり、品種改良による増産が求められています。世界中の多くの研究者や農家が、小麦の品種改良に取り組んでおり、より生産性が高く、病気に強い品種の開発が進んでいます。
しかし、現代の普通小麦は成分が偏り、ミネラルが豊富の昔のような小麦の形態とはかけ離れたものとなってしまいました。
品種改良にはどのような技術があるのか。
品種改良の技術にはどのようなものがあるのでしょうか。
今回は現在行われている品種改良の技術には大きく分けて2つ挙げられます。
「交配による品種改良」と「遺伝子操作による品種改良」です。
小麦の場合は交配による品種改良が行われていることが多いですが、近年、遺伝子操作による品種改良が始まろうとしています。
交配による品種改良
交配による品種改良は、異なる品種を掛け合わせ、自然もしくは人口的に受粉を行い新しい品種を開発する方法です。
例えば、味は美味しいけれど病気に弱い品種と、味はいまいちだけど病気に強い品種。両者を掛け合わせて、味が美味しくて病気に強い品種を開発するというのが、交配による品種です。
遺伝子操作による品種改良
遺伝子操作による品種改良とは、もともとある遺伝子を科学的に操作することで、全く新しい品種を作り出す方法です。
ある特定の遺伝子を追加したりする遺伝子組み換え技術や、生物がもともと持っている遺伝子を編集するゲノム編集などが挙げられます。
遺伝子組み換えとゲノム編集の違いは?
遺伝子操作による品種改良には大きく分けて2つあります。
「遺伝子組み換え」と「ゲノム編集」です。
2つの違いを簡単に説明すると、遺伝子を「加える」か「編集する」かの違いです。
遺伝子組み換え技術とは、遺伝子を加える方法で、より良い遺伝子を作る技術です。例えば、病気に弱い遺伝子に、病気に強い遺伝子を追加するという方法が挙げられます。
一方、ゲノム編集とは、遺伝子を直接的に編集する方法で、DNA鎖を切断することで遺伝子を編集することができます。例えば、果実が小さい遺伝子の一部を切断し、成長を制御するシステムを破壊することで大きな果実に育てる方法などが挙げられます。
ゲノム編集された小麦が流通する可能性。
また、流通の観点から両者の違いにはもう一つあります。それは表示義務があるかないかです。結論から、遺伝子組み換え食品には表示義務があり、ゲノム編集食品には表示義務はありません。
現在の日本の法律では、遺伝子組み換え技術が使用されている場合、食品表示が義務付けられています。なぜなら、全く新しい遺伝子が生成されることから、健康リスクや生態系の破壊などの問題を引き起こす可能性があると判断されているからです。
遺伝子組み換えについて詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
一方、ゲノム編集食品には表示義務がありません。なぜなら、ゲノム編集はもともと存在する遺伝子を操作するため、自然界でも起こりうるため安全であると科学者の間で判断されているからです。
国内で初めてゲノム編集食品が発売されたのは2018年で、現在はトマト、マダイ、フグが流通しています。近い将来、小麦にもこの技術が使用される可能性があります。
遺伝子操作による品種改良は、食の発展や生産の効率化などに役立つ技術なのかもしれません。
しかし、消費者に安全性や社会的・環境的な影響についてあまり説明がないまま流通することは本当に正しいことなのでしょうか。
さまざまな見解はありますが、一人ひとりが食の安全について考え、より良い食文化を築いていく必要があるでしょう。
品種改良があまりされていない小麦。
品種改良は小麦を生産するために必要な技術です。その反面で生態系や健康リスクなどの懸念の声などもあります。
品種改良がされていない小麦を選びたいという方のために、おすすめの小麦品種をご紹介します。それが、スペルト小麦です。
現代生産されているスペルト小麦も品種改良は行われていますが、小麦の形態は古代そのものに近いということから、古代小麦と言われています。古代小麦には、スペルト小麦の他にカムット小麦、エンマー小麦などがあります。
おすすめのスペルト小麦
・ディンケルスター
希少な北海道産ディンケル小麦(英名:スペルト小麦)を丁寧に石臼挽きにした贅沢な一品です。チョコレートのような甘い香りをお楽しみいただけます。
・北海道産スペルト小麦粉
Comburger(コーンバーガー)種の北海道産スペルト小麦を丁寧に石臼挽きにした贅沢な一品です。
まとめ
今回は品種改良について紹介しました。
品種改良によって小麦の生産が発展してきた一方で、身体や環境破壊の影響など懸念の声もあります。
この記事を読んで、少しでも品種改良について理解を深めていただき、小麦選びについて役立てていただけると嬉しいです。
ベーカリスタでは、パン作りに役立つ情報や、パン作りをより楽しむためのアイデア、さらにパンや小麦に関する知識をお届けします。