「水をたくさん入れたはずなのに、パンがパサパサになる!」
このような経験はありませんか?
本記事ではパサパサとしたパンにならないための吸水の方法について、皆さんに共有したいと思います。
ベーカリスタでは、パン材料を扱う専門家として、パンや小麦に役立つ情報をお届けしています。ぜひ参考にしてみてください。
パンがパサパサになる理由
パンがパサパサになる原因は、表面的には、水分が不足しているからです。しかし、本質的に重要なのは、その水分がなぜ不足してしまうのかという問いです。
この水分不足には大きく分けて2つの可能性があります。
1つは、最初から十分な水分が供給されていなかったこと。もう1つは、加熱や時間が経過することにより水分が失われたことです。
水分には蒸発しやすい水と蒸発しにくい水があります。例えば、小麦粒の皮の表面に付着している水と、粒の中まで浸透している水、どちらが先に蒸発するのでしょうか。
これを理解するためには、自由水と結合水の理論を把握しておくことが必要です。
自由水と結合水の理論
吸水を理解する上で知っておくべき水分が2つあります。
それは自由水と結合水です。
両者の違いは水以外の物質に結合しているか、結合していないかの違いです。
自由水とは、文字通り自由に動くことができる水分のことです。食品中では、他の成分との結合力が弱いため、自由に動き回ることができます。
結合水は、タンパク質などの食物成分と結びついている水分のことで、その結合力が強いために自由に動くことができません。
自由水は蒸発しやすく、食品の保存性を低下させる可能性があります。一方、結合水は蒸発しにくく、パンの食感を維持と保存に役に立ちます。
小麦粉と水を混ぜるともっちりとした生地となるのは、水が小麦のタンパク質やでんぷんと結合したからです。
パンをパサパサにならないようにするためには、自由水をできるだけ作らず、結合水を作ることが重要です。
結合水を作るためには、よくこねたり、時間をかけて浸透させたりする必要があります。
でんぷんの吸水がパンをふんわりさせる。
小麦に含まれる成分の約7割はでんぷんと言われています。でんぷんはパンをふんわりとさせるために、とても重要な成分の一つです。
でんぷんは水をよく吸収します。しかし、吸水が十分でないと、仕上がりが固くなることがあります。
まず、でんぷんの性質について説明します。
でんぷんは水と混ぜ合わせて加熱すると、水を吸い上げて膨張します。つまり、焼成前に十分な吸水が行われていないと、水分が足りなくなり固くなってしまうのです。
でんぷんは、上図で示されているような一連のプロセスを経ます。
焼成を始め、温度が45〜65℃に達するとでんぷんは水を吸収し始めます。加熱を続けると、でんぷんは「糊化(こうか)」という状態になり、ドロドロとした粘性を持つようになります。この糊化の段階で水分の吸収は終了します。
さらに加熱を続けると、次に余分な水分が蒸発し始め、でんぷん粒が白く硬化していきます。この現象を「固化(こか)」といい、これがふんわりとした食感のパンを作り出す一因となります。
強力粉と薄力粉では吸水性が異なる。
小麦粉の種類によっても吸水性は異なります。例えば、強力粉や全粒粉はたんぱく質や食物繊維が豊富で吸水性が高いです。
一方、薄力粉は精製度が高く、タンパク質含有量が少ないため、吸水性は低いです。
また、タンパク質やでんぷんの性質によっても吸水性は異なります。
例えば、「北海道産きたほなみ小麦」は薄力系品種ですが、年度や製品によりタンパク質含有量が多くなることがあります。しかし、強力系品種と同等のタンパク含有量でも、吸水能力は低い傾向があります。
てごねとミキサーで差が出る。
てごねとミキサーでも若干吸水に差が生じることがあります。
てごねの場合、製パン技術の力量により、全体的に水分が行き渡らなかった場合、吸水率は下がる傾向にあります。
一方、ミキサーを使用する場合は、一定の速度で均一にこねることができますが、過剰な熱によって水分を蒸発させてしまう可能性があります。
パン作りにおける吸水率は、環境や製法によって変わることがあるので、その変動性を考慮することが重要です。
パサパサにならないための7つの方法
より美味しいパンを作るためには、吸水が非常に重要です。ただ、水を多く加えるだけなく、水を生地に結合させたり(結合水)、水を奪われないようにすることも重要です。
より多くの水を浸透させるための方法を7つご紹介します。
- 水をたくさん加える
- よくこねる
- グルテンが多いものを選ぶ
- 時間をかけて浸透させる
- 油脂を入れる
- 副材料を減らす
- 全粒粉は水に浸しておく
- 水をたくさん加える
当然のことかもしれませんが、パン生地に十分な水を加えることで、焼き上がりのパサパサ感を軽減することができます。しかし、小麦粉の性質により、適切な水分量は変わることがあります。従って、レシピに頼るだけではなく、生地の状態を見て水分の量を調整することが重要です。
よくこねる
パン生地をしっかりとこねることで、グルテン(小麦のたんぱく質)が形成され、生地が弾力を持つようになります。その結果、生地はより多くの水分を保持する能力を得ます。
一方、十分にこねられていないパン生地は、グルテンが形成されず、十分な水分を保持する能力が低下します。これがパサパサしたパンの一因となるため、生地のこね具合はパンの食感に大きく影響します。
グルテンが多いものを選ぶ
グルテンは水と結合しやすく、グルテン量が多い小麦粉ほど、水を多く吸水することができます。これにより、生地は弾力を持ち、水分を長期間保持することができます。それが、パンにふんわりとした柔らかい食感を与えます。
しかし、グルテンが多すぎると固くなりやすくもなり、適切なバランスが重要です。
時間をかけて浸透させる
水分を生地に浸透させるためには時間が必要です。ハードブレッドに使用される準強力粉は普通の強力粉と比べると吸水能力は低いです。それでもしっとりとしたクラムに仕上がるのは、時間をかけて水を浸透させているからです。特に冷蔵庫での低温長時間発酵は、生地が水分をじっくりと吸収するのに適しています。
油脂を入れる
油脂は水分を閉じ込める役割があり、吸水の保持の助けになります。ただし、油脂を早い段階で加えると吸水やグルテン形成を阻害するので、生地を十分にこね上げてから加えることをおすすめします。
副材料を減らす
副材料である砂糖や塩は水分を吸収する性質があり、その結果、生地が十分な水分を吸水することを妨げる可能性があります。したがって、これらの副材料を少なくすることで、生地がより容易に水分を吸収することが可能になります。
なお、多くの副材料を含むレシピを使用する場合は、副材料の水分吸収を考慮に入れ、その分多めの水分を用意することをおすすめします。また、副材料を加えるタイミングも重要で、生地が十分に水分を吸収した後に追加するとよいでしょう。
全粒粉は水に浸しておく
全粒粉やふすまは、乾燥状態のまま生地に加えると、グルテンやでんぷんが必要とする水分を吸収してしまう可能性があります。それを防ぐためには、これらを使用する前にあらかじめ水に浸しておくと良いでしょう。パン生地の水分バランスを維持し、パサパサ感を減らすことができます。
初心者におすすめの小麦粉
吸水73〜75%
香りの良い「春よ恋」小麦と、強い生地を作る「ゆめちから」小麦をブレンドしたスタンダード小麦粉です。お店のベース粉として、麦の香りを際立たせるシンプルな配合から、洋酒漬けフルーツたっぷりの重たい生地まで、幅広く対応します。
吸水65〜67%
パン用国産小麦のフロンティアを切り開いた「はるゆたか小麦」に柔らかく甘い「きたほなみ小麦」を加えました。小麦の香りを楽しむシンプルな食パンはもちろん。ハードブレッドに使えばざくざくとした食感ともっちりとしたクラムを楽しめます。
※吸水率は標準的な角食パン配合が対象となります。
まとめ
パンがパサパサになるのは、吸水が不十分であるか、加熱と時間の経過により水分が蒸発してしまうからです。これを防ぐためには適切な吸水方法と水分量の管理が重要です。
そのためには、たっぷりの水分を加える、よくこねる、グルテンが多い小麦粉を選ぶ、時間をかけて水分を浸透させる、油脂を適切なタイミングで加える、副材料を控えめにする、全粒粉は水に浸しておくなどの方法があります。
水分が多すぎると生地が扱いにくくなり、焼成時に形が崩れる可能性があります。逆に水分が少なすぎると、パンは固くなりパサパサになる傾向があります。
適切な水分量は作るパンの種類によるので、それぞれのレシピや自分の好みに合わせて調整しましょう。
ベーカリスタでは、パン作りに役立つ情報や、パン作りをより楽しむためのアイデア、さらにパンや小麦に関する知識をお届けします。