「B’s Kitchen」 日下部章子さん

天然野菜色とインスピレーションでつくる、
日常を彩るパン。

神奈川県綾瀬市。静かな住宅地の奥に、自宅を改造した小さなお店「B’s Kitchen」が佇んでいます。毎週木曜日、ご近所さんをほがらかに迎えるのは、ベーカリスタの日下部 章子(くさかべ・あきこ)さん。
天然素材だけを使って着色した「カメロンパン」をはじめとするカラフルなパンは、一口噛めば酵母の甘みがじんわりと広がる優しい味。安心・安全なパンへのこだわりを伺いました。

自宅を改造した、小さなパンのお店

落ち着いた住宅地の陽だまりに映える、小さな木の看板。かわいらしいカメに導かれるように路地の奥へ入っていくと、そこにあるのはごく普通のお家です。

でもひとつ違うのは、パンのとってもいい香りが漂っていること。ここが、日下部 章子さんの自宅の一角を改造して作られたお店「B’s Kitchen」なのです。

玄関を開けると、テーブルに約10種類のパンが並んでいます。

看板商品は、色とりどりのカメロンパン。どこから食べればいいのか……と、戸惑ってしまうくらいキュートな姿がたまりません。

チーズがゴロゴロ入った「3種のチーズパン」や「ベーコンチーズカレー」は、歯ごたえ抜群でお腹がいっぱいになると、男性に評判です。

低温長時間発酵の「あこ酵母」バターロールも、毎週必ず店頭に並びます。ふっくらと柔らかく、バターの香り高く、あともう一個……と、思わず手が伸びてしまう一品。

おやつにぴったりの、一口サイズのスイーツも。腸内環境を整えてくれるひしおや酵母を配したお菓子からは、日下部さんの食への意識の高さが伺えます。

インスピレーションと研究のたまもの! 天然素材のカラフルなパン

B’s Kitchenの看板商品「カメロンパン」は、パステルピンクやブルーとカラフル! 日下部さんは「パンってみんな茶色だから、ほかの色もあったほうがいいじゃない?」と、いたずらっぽく笑います。

みんなが安心して食べられるものを、という想いから着色料は一切不使用。キクイモの葉やバタフライ・ピーといった天然野菜を使い、ひらめきと研究によって彩り豊かなパンが生まれています。

「メニューづくりはいつも、インスピレーションなんです。最近だと、息子から『宇宙ケーキ』をリクエストされました。漠然としているので、宇宙=何色だろう?と考えて……画像検索すると、黒い空に銀河がある。

じゃあ、黒はブラックココアで出せるかな? そこに星型の製菓材料を散らせばいいかな?

と、アイディアが湧くので、それを形にしていきます。イメージで作るから、失敗することもありますよ!笑」

今週のおすすめはビーツとクランベリーを使った、ピンク色の春らしいパン。しかし、理想の色を出すまでには、長い試行錯誤がありました。

「ビーツをペーストにしたらピンクにできるかな?と、思ったんですけれど、焼くと色が変わってしまって。ベイクマさんで売っているビーツパウダーを混ぜ、焼く温度を変えてみたり、仕込みには水ではなくミルクを使ってみたり……と、研究を重ねました。」

試作や試食会を繰り返し、カラー・バリエーションは7色に。イチゴのペールピンク、抹茶のグリーン、バタフライ・ピーの青、エスプレッソの茶色、かぼちゃのイエロー、ビーツのピンク、紅麹の赤……他のベーカリーにはない!と、お客さんに喜んでもらえています。

B’s Kitchenのパンは、ただ色鮮やかなだけではありません。

きちんとした料理を食べる家庭で育ち、もともと食へのこだわりが強かった日下部さん。自身の子どもがアトピーだったことから、「安心安全」の食材だけを使うことを心がけています。

高品質と評判の北海道産の小麦粉や野菜パウダー、パンケーキミックス、あんこなどをベイクマから購入しているほか、砂糖や調味料も含めて全商品が無添加です。

頼まれることで、広がってきたパンづくり

日下部さんは長年、PCのインストラクターとして働いてきました。もともとお菓子作りが大好きで、会社に差し入れをしたり、知り合いに販売したことも。

2013年からは、友人の依頼がきっかけでパン講座を始め、現在もパン作りやカメロンパンのワークショップを毎月開催しています。職業柄、本当は販売よりも教えることが好き!と、にっこり。

「できない人の目線に立つって難しいけれど、そこまで自分を落とし込むことはとても勉強になります。上手くならなくても、器用じゃなくてもいい。美味しいものを作る楽しさがある。みんながパンを作って、喜んで帰っていく姿を見るのが嬉しいんです。」

そのうちに、パンを売ってほしいと頼まれるようになりました。今はB’s Kitchenのトレードマークとなっている「カメロンパン」も、イベントでの依頼がきっかけ。

「保育園の園長さんとお会いして、その園のマークがカメさんだったんです。卒園式で園児に渡したいから、カメロンパンを作ってもらえないか?と、頼まれて。試作の後、2019年の卒園式にカメロンパンを30個用意しました。」

シェアキッチンやレンタルキッチンを活用しながらも、工房が欲しいとずっと思っていた日下部さん。

「でも、お店を借りると家賃がかかる……だったら自分の敷地内でやろう!と。夫と相談し、2019年の11月に自宅を改造し工房にしました。」

営業許可も得て、12月には販売を開始! 屋号の「B’s Kitchen」は日下部さんのあだ名から。「パン屋でもないし、お菓子屋でもないし『キッチン』がいいなと。ここは“美味しいものを売っているお店”だと思っています。」

デジタルとアナログを駆使した情報発信

もともとは会社員だったため、お店を開く前から地域との強い繋がりがあったわけではありません。B’s Kitchenをはじめるにあたり、SNSでの精力的な情報発信を心がけました。

「開店前に綾瀬市の創業スクールで、どう書けばインプレッションが上がるか勉強しました。プロフィールと名前に“カメロンパン”と入れ、イベント出店時も毎日「カメロンパン出店します」とつぶやく。

Facebookではブログのリンクをシェアし、地元や近隣の地域ページにも投稿しています。そうすると、SNSを見たという方が何人も来てくれたんです。先週も雨の中、遠方からわざわざ足を運んでくれたり……。」

集客のための努力は、デジタルだけではありません。

「3日間夜なべでチラシを作って、近隣300m以内の方に自分の足で配りました。娘の元バイト先などにもチラシを貼ってもらっています。」

実際に取材中、SNSで知ったという主婦や張り紙を見たご近所さんが次から次へと訪れていました。お客さんはみな、選んだパンとプレゼントの小さなラスクを片手に、幸せそうな顔で帰っていきます。

情報発信で蒔いた小さな種を丁寧に育んでいく日下部さんの暖かさに、様々なご縁が紡がれてきたのでしょう。

家族のライフスタイルに合わせながらも、美味しいパンを生み出す

ベーカリスタとして納得のいく味を追求しながらも、自宅に設けられた工房だからこそ、家族の生活にも配慮する必要がありました。

「夫は会社員なので、販売日以外は生活のサイクルを崩さないようにしています。基本的には9時〜17時でわたしもパン作りをし、ご飯は一緒に食べる。販売日に焼くのは惣菜パンだけにして、他のパンは前日や2日前に仕込み、低温長時間発酵し焼き上げます。他のパン屋さんのように深夜に起きて一気に焼くことができないので、自分のライフスタイルに合わせて出しても美味しいパンを作ります。」

「例えば、「あこ酵母」は焼いた日より2日目以降が美味しいんですよ。こういったパンを前日に仕込んで「今日が食べごろですよ」と出すことならできる。短時間で作ったパンは劣化が早いけれど、ゆっくりじっくり発酵させて作った方が、美味しさも長続きするんです。」

米麹からできた「あこ酵母」は酵母をおこすまでに24時間かかり、さらに生地ができるまで8時間発酵させます。焼き上がるまでにたいへんな手間と時間がかかりますが、その分じんわりと甘く、もっちり芳醇なパンができました。

ふらっと来れる、地域密着型を目指して

自宅での販売を始めて、約2ヶ月。これからは都内や横浜のイベント出店を視野に入れつつも、地元に親しみやすいお店を目指しています。

「今は木曜日限定の販売ですけれど、別の日にダスキンの交換に来た方が「カメロンパンありますか?」って聞いてくださって。このパンが食べたいんだけど今日はある?と、ふらっと来て気軽に買えるお店がいいなと思います。ライフスタイルに合わせつつも地域の方の要望に応えていきたいですね。」

頼りにされて育ってきた、カメロンパンのお店「B’s Kitchen」。これからも、ご近所の食卓をいつもよりも少しカラフルにして、日常を彩っていくことでしょう。

(文・写真 Grace Okamoto)

B’s Kitchen | びーずきっちん


神奈川県綾瀬市上土棚中2-1-16
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